天啓観測

Hi zombies!

ベッドの下に人がいる

 こんにちは、美星と申します。学生で、普段は塾や書店で働いており、趣味でブログを書いています。今日は、私が体験した少し奇妙な話を、ここに記そうと思います。

 中学生くらいの頃から慢性的な不眠を抱えていて、寝付けない日は平気で朝を迎えてしまいます。最近は強めの睡眠剤を処方してもらっているのですが、それでも夜中の3時を回っても寝られないということが多くあるのです。

 これはそんな不眠の夜でした。

 なかなか寝付けなくて苛立ち始めた私の右耳に、不意に小さな物音が掠めました。枕に置いた右耳から、どうも不思議な音がするのです。なにかが動く音とも違う。家鳴りとも違う。そう、ちょうど、人の声のような、くぐもって音程を持った音でした。

 私は元来、幽霊やお化けなどのオカルティックな物は信じていません。子供の頃から信じていませんでした。幽霊より人間の方が怖くって、同年代の子たちなら枕元に立つ髪の長い女に怯えるところを、私は刃物を持つ男がいたら怖いと怯えていました。幽霊より、殺人犯の方がずっと怖いのです。

 その癖はいまだに抜けず、枕元に立つ刃物を持った男や、ベッドの下に潜り込んで私が眠るのを待つ男がいるのを想像すると、背筋が寒くなります。

 私は慌てて枕をどけて、ベッドに耳をひとりと寄せました。それは、やはり人の声です。年を取っているとも若いとも言えない男の声が、ずっとずっと同じことを言っています。なにを言っているのだろう。ベッドの下に、なにがいるのだろう。私は音を立てずに、耳を傾け続けました。

「殺せ、殺せ」

 声は、しきりにそれだけを発していました。そこで私は、むしろ一旦冷静になりました。怪談話によくある展開だ。由来不明の声が、殺せ殺せというので、隣人を殺害するなんて、よくある話だ。あるいは、睡眠剤が効きすぎて幻聴を聴かせているのだと考えました。あるいはもしかすると、そういう幻聴を感じ取ってしまう別な精神病にかかったのかもしれない。そう考えると怖かったので、一応ベッドの下を確認することにしました。

 ベッドの下は手が届かず、あまり掃除をしないので埃だらけでした。しかしライトを照らしてみると、ちょうど私の頭の位置に、白い箱が置いてあるのです。

 こんなもの、置いていただろうか。箱をゆっくり取り出すと、蓋が閉じていました。大きさとしては、スーパーの鮮魚コーナーで、魚が凍らされているあの発泡スチロールくらいのサイズです。もしこの中から声がしているなら……そう思って耳を寄せてみると、やはり、中からは「殺せ、殺せ」と聞こえてきました。

 人が入るには、箱は小さすぎる。でも、人の頭くらいなら入りそうなサイズでした。人の頭くらいなら――。ぞっとしました。私には、その箱の中に、男の生首がびっちりと入っていて、口だけが動いて「殺せ、殺せ」と叫んでいる、そういう想像が浮かんで、背筋を汗がつたい、鳥肌で腕が逆立つ感覚を覚えました。真夏なのに一瞬で冷えきった私の身体は硬直して、しかし箱を開けなければずっとこのままだ、と思うとさらに怖くなって、箱の蓋を手に持ち、ゆっくりと開きました。その間にも「殺せ」という命令は続いています。

 箱の蓋は軽くて、すぐに開きました。意を決して覗き込む私の目に飛び込んできたのは、緑の茂る森でした。

「殺せ、殺せ!」

 声は、箱の中で暮らす小人が、狩りをする音だったのです。「右に追い詰めろ! 殺せ! 撃て!」

 なんだ、狩りか。

 私は数人いる彼らに話しかけました。

「こんにちわぁ」
「うわ、人だ!」「でかい人だ!」

 小人たちは口々に言います。彼らは小さいだけで、見た目は我々と変わりないように見えます。人間をそのまま小さく、3センチくらいにしたような様相でした。

 どうやら、掃除をしないあまり、ベッドの下に小人が住み着き、コミュニティを形成していたようです。箱の端の方を見ると、村落も見受けられます。大人の男たちが狩りに出ているのでしょう。

 私たちはすぐに打ち解けました。というのも、私が冷蔵庫からハムとキュウリを持ってきて、ちぎってプレゼントをしたからです。それからは、毎日二回、ベッドの下から箱を取り出して、食事を村に落としています。最近では赤ちゃんが生まれた家があり、5ミリくらいしかないのでとても可愛いです。

 ベッドの下に、人がいる。