天啓観測

Hi zombies!

私が抱く

「私、知ってるよ」
 そう言うと、彼女の双眸が私に赤い光を見せた。もはや隠す気もない敵意が私を強く捉えたのだ。彼女は、知っていると言われたくない。でも知っている。彼女のピースは歪で複雑な形をしているが、完成させれば灰の色ひとつだ。
「あの子といるのは、あの子が弱い限りでしょう」
 自分を簡単な人間だと思われたくない。ありきたりな言葉で飾られたくない。だから私はあえて知った言葉で彼女を語ろうとした。彼女の信条と感情が衝突して、ひどい廃墟となろうとも、よもや私には関係もなかった。
「その弱さが好きなの、あなたは。自分の手の内にある限りで、あの子の近くにいる。与えようとしている。それで自分が高いところにいると錯覚するから」
 白い靄が横切った。私の吐いた息だ。彼女の吐いた息だ。かき集めて私のものにしたかった。取り留めのない、それに意味を見出して、これはあなたの文学だよと言いたかった。彼女の目から色が消えて、私はむせ返るほど息を吸った。
「やっぱり、なにも分かってない」
 分かっている。そう、分かっていた。彼女のことを、私はひとつも知りはしないのだ。言ってひどく後悔した。彼女の目から赤色が消えて、ひどく焦った。私は弱くあれないから、それでしかその瞳を見つめることは許されないのに。藍に光るあなたの好ましい目を、弱い誰かに見せる色を――ガラス玉に反射する空を、雲を、星空を、私は見ることは適わないのだから。せめて、あなたの怒りを独占したくて、知っていると嘘をついた。結果それ自体が私の言葉を論駁した。
「私の鍵を一つだけ持っている風だから、特別に教えてあげる。人に、私は私の庇護下に入ればいいと思っている。私がその人より高かろうと低かろうとそう思っている。弱みを常に私に見せつけていればいいと。私の手を離れて大丈夫です、強くなりますと言われた途端に、そんなことはしなくていいと思うし、そいつがなお弱くなるようにする。でもそれは、私を高く置きたいからじゃない。あなたの勘違いはそれ」
 冷たい風にいてもたってもいられなくなって、何かを掻き抱きたい衝動に駆られた。目の前の女をそうして見た。
「お前が抱くんじゃない、私が抱く」