天啓観測

Hi zombies!

祖父母からの小遣い

 祖父母の家は二階建てで部屋数がかなり多かったが、そのどこの部屋を漁っても一円玉が転がり出てくるので、幼少期の趣味といえばその家で一円玉探しをすることだった。とある日には一円玉だけで二百円になったことがあって、私はたいそう喜んだし、祖父母もそんな私を見て嬉しがっていたような気がする。一円玉の薄いのを十枚ずつ重ね合わせて数えていくのを、横で祖父母が見ていたような思い出がある。

 

 母がどこかへ行くので泊まりも多かったが、どんな理由にせよ家に行くたびに「今日は一円玉探さなくていいの?」なんて聞いてくるから、ああまだ出てくるのかと意気揚々探していたのが当時の私であった。

 

 貯金箱代わりにしていた空きのティッシュケースは、最終的にティッシュが詰まっていたときよりも重くなった。これをどうすればいいのかと母に聞くと、「郵便局へ行けば替えてもらえる」とのことだったから、私は万全を期してティッシュ箱を袋に詰め自転車のかごへ乗せて一人で郵便局へ行った。「替えてください」と言うと、結構待たされた。時計を見ていたわけでもないので定かではないが、感覚的には一時間くらい待った。機械でやると思っていたから面食らったけれど、たぶん手で数えていたのだ。

 

 一円玉は千円札二枚になった。いま思い出せばいくら家が広いからと言ったってこんな量の一円玉が転がっているわけがない。たぶん祖父母は小遣いをこういうふうにして渡していたのだ。最初に一円玉を集め始めたのは私の気まぐれでそこに祖父母の作為は働いていなかったけれど、たぶんそれがあまりに楽しそうだったので冒険心をくすぐって一円玉を家中に隠してくれたに違いなかった。

 

 一円玉に両替された千円札を、私はまた千円札に両替したわけである。考えてみれば粋なことだ。小遣いだよと言って千円札を渡すよりよっぽどいい。母に金がないように母の実家にも金がないわけだから、大した小遣いを孫にはやれず、それはある意味苦肉の策だったわけだけど、あれは楽しかった。