天啓観測

Hi zombies!

私の夏。私のバイク。駐輪場のおじさん。

 久々に仕事以外で外に出た。夏の悪あがきというか、最高気温は35度を超えて、馬鹿みたいに晴れていた。

 

 

 隣町まで行って用事を終えて帰ってきて、原付を駅の駐輪場まで迎えに行った。駐輪場の日陰の中を自分の原付を探していて、ふと自分がHONDAのtodayを探していることに気がついた。

 

 

 あれはもうボロで、一年くらい前に買い換えたんだった。杜撰な人間だから、自分の原付に蜘蛛の巣が張っているのを私は知っていた。だから脳内からtodayを追い払ったら、すぐに私の原付を見つけることができた。

 

 

 けど、バックミラーのところにバッタが止まっていた。

 

 

 日陰でも暑い、むんむんとした空間で、こいつをどうしたもんかと睨みつける。走り出したら落ちるかもと思ったけれど、こっちに飛んでくる可能性もある。

 

 

 ハンドルをぶん殴っても落ちないので、途方に暮れた。とりあえずハンドルのところに付けた駐車切符を外すと、後ろから駐輪場の管理人であろうおじさんが来た。

 

「いいよそれ」

 

? 手を差し出すおじさんに、私は何を良しとされたのかが分からなかった。

 

 けど、すぐにゴミとなった駐車切符のことを言っているのだとわかって、お礼を言いながら手渡した。

 

 おじさんはそれをポッケに突っ込みながら、「暑いね」と私に話しかける。私も「もう九月なのにね」と答えた。

 

「日影だから多少ましだけど、上は鉄板だからね」

 

見上げると、駐輪場の屋根がある。この上は車を停める駐車場だ。

 

「ああ……」
「気を付けてね」
「はい。あっ」

 

ごみを受け取ってくれた上にお願いなどとはかなり図々しい気もしたが「これ、取れます?」とバッタを指さした。

 

おじさんは特に気にする風もなくそれを掴むと、口に放り込んだ。嘘。普通に投げ捨てた。

バッタは羽音を立てながら遠くに行き、また私はおじさんに礼を言った。

 

「じゃ」

 

と会釈をして、エンジンをかけ走り出す。

 

 

 日差しは強かったけれど、風は涼しかった。秋は確実に近づいているのだ。

 

 

 なにもその、駐輪場のおじさんとのエピソードで、というわけではないけれど、たまに外に出ると、案外他人が優しいことに気がつく。

 

 

 それは時に友人や家族よりあたたかい。

 

 

 実際のところ、100まで私のことを知ってる人間よりは、1も知らない人間の方が気が楽ということはある。

 

 

 知っていれば知っているだけ遠慮や不満が生まれることもあるだろうし、逆に何も知らないからこその遠慮や不満が円滑に事を進めようという関係性を引き出して、嫌悪にならないことが多い。

 

 

 たぶん、家族や友人に満足する割合と、不満を抱く割合、そして他人に満足する割合と、不満を抱く割合は、そんなに変わらないと思う。

 

 

 家族や友人といれば絶対に悪意に触れないわけではないし、ときおり良く知りもしない人間の方が気が楽だと思うことはある。

 

 

 いわゆる親友と一般に呼ばれるような関係は、実はこれは他人に近い気がする。こまめに連絡を取らないし、めちゃくちゃ会う時期があれば一切会わない時期があったりする。いざ合えば死ぬほど喋ったり、死ぬほど喋らなかったりする。

 

 

 お互いのウィークポイントや怒りのゲージを完全に理解しているが故に、全くそれを知らない振りができる。他人と関わる時、その人が何を言われたらしんどいかということを考えるよりは、最初から何か地雷になるようなことを言わない方が楽だけれど、よく知っている仲であればそれができる、気がする。

 


 原付で走りながら、その日何回か触れた他人の優しさを思い返して、そんなようなことを考えていた。死ぬほど暑い夏。

 

 

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