父はエミネム、祖父はニーチェ
人生で二度、本当に気が滅入ったことがある。症状だけ見れば多分鬱だったんですが、病院行って診てもらったわけでもないので、気が滅入ってたんです。
こうやって気が滅入ったときって、みんなは誰に助けてもらうんですか? 家族とか、友達とかでしょうか。
これは大概ウケるので持ちネタにしてるんですが、十七とか十八のときにそうやってメンタルがやられていたときに出会ったのがエミネムなんですよ。それで全部治ったんですよね。「いや、エミネムかよ」というところでみんなにウケるんだと思うんですけど、いずれにしても私にはどでかい出会いで、それこそ鬱をやってクスリにのめり込んだ彼の言葉は胸に響いたわけです。自分が落ちこぼれだったときに「俺の身にもなれ、お前の身になるから」と言ってくれる存在を私は必要としてたんです。
彼のファンが彼のことを「お父さん」と呼ぶのを知って、「そうか」と思って、私は彼が自分の精神的な父親になるのを感じた。
如何せん義父と仲良くなかったし、少なくとも義父は絶対に私の支えにはなってくれなかったので、「すすり泣いてるお前らのために歌う」と言ってくれるような信頼できる家族ができた気がして、嬉しかったのを覚えています。それは今でもそう。
二十歳になるかならんかのときに、また同じように気が滅入った。父の励ましはあったが、多分私は十七の時とは別のなにかを欲していたのだと思う。
今度助けてくれたのはニーチェだった。私が何を欲していたのか明確にはわからんが、「この人私のこと全部知ってんじゃん」と思わされた。
エミネムが、私のつらい時に俺がついてると寄り添ってくれる父親なのだとしたら、ニーチェは私が誰にも頼れない時にどうするかという術を教えてくれる祖父だった。精神的メンターはめちゃくちゃ多い。ニーチェが「大きな鏡だ」と言ったショーペンハウアーは、私の曾祖父にあたる。あらゆることを相談する実際には存在しない同世代の女の子とか、どんな逆境でも強く生きることを教えてくれるマリー・アントワネットという母もいれば、親戚にはショパンもいる。
狂ったように見えるか? 私はこれで精神を保っている。相談する相手が胸のうちにいるので、助かっている。一晩中話し続けて不眠になることもあるが、家族ってそういうものだし。