ゾンビ

　例えば無神経な言葉で相手を傷付けても何も思わない人をサイコパスなどと呼ぶのなら、神経質に言葉を飾り思いのこもらない思いやりで人をぬか喜びさせる人のことをゾンビと私は呼ぶ。

　思ってることを告げて人を傷付ける方がよっぽど健全なんじゃないかと思えるほどの狼藉をゾンビは働いている。

　相手がゾンビだと知ればこっちもゾンビの振りをするしかない。なぜならゾンビたちは繊細だから！

　感染するタイプのゾンビだとこちら側もゾンビになってしまう可能性に気を付けなければならない。深淵をのぞく時深淵もこちらをのぞいている。己自身も怪物にならないよう用心せよ、というやつ。

　ゾンビの特徴は知れている。底が浅いし、「ヴァー」しか言わないから。そう、決まった定型句でしか人を褒められない・決まったコミュニケーションでしか愛を獲得できない・獲得した愛は驚くほど矮小である・定型句はこれでもかというばかりの陳腐な言葉で・コミュニケーションはこれでもかというばかりの悪趣味なコミュニケーションをする。

　人を本気で罵れない人間には人を本気で褒めちぎることはできない。人を本気で嫌いになれない人間は人を本気で好きにはなれない。より大きい悪徳がより大きい美徳を作る可能性を、ゾンビは考えられない。すでに生命活動を放棄しているから……

　認識と哲学の浅さがゾンビを作る。可哀想に、つまらない人生を送ってきたのが運の尽きだった。