天啓観測

Hi zombies!

ゴキブリ連盟 SS

 『ゴキブリ連盟』というのが私たち四人のグループ名だった。週に一度集まって、いちばん大きいゴキブリをつらまえて来た人の勝ちである。

 ある日、Sが親指程度の大きさしかない真っ黒なのを見つけてきた。他の三人のに比べれば全長は半分未満しかなかったし、チャバネにもクロにも敵わなかったが、三人の耳目は、そのダンゴムシにも似た様相に集まっていた。

「これ、大きくないよね?」
「ううん、大きかった」
「いや、小さいよね? よく見て、他の人の」
「ううん、これが一番大きい。山に入って三日かけて探した」

 私たちはSが一歩も引かないので辟易した。なにをどう見たって、もっとも小さいゴキブリである。その日を境にゴキブリ連盟は解散した。ここまで価値観が違うとやっていけないと判断されたからである。

 ということを、10年経ったいま不意に思い出して、ああアレは確かに大きかったと思った。私は小学生の頃に買い込んだ図鑑に手を伸ばして、みんなが避けて通るページを開いた。

 Sが持ってきたのは、絶滅危惧種だったので図鑑に大きく載っていたし、専用のコラムまで用意されていた。しかも名前に「オオ」が付く「オオゴキブリ」なので、たしかにどんなゴキブリより大きかったのだが、私たちゴキブリ連盟は誰もそれに気が付けなかったのである。

 切実な後悔をした。あの日、Sを優勝にしておけば、ゴキブリ連盟は永遠に不滅だったのに、彼女の価値と視野を見誤ったせいで、私たちは解散してしまったのだ。

 みなさん、オオゴキブリは、もうすぐ絶滅してしまいます。森林を、大切に守ってください。あと、友人も大切にしてください。